Miruntius ミュージカルと雑記その他

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ミュージカル『レッド・ブック』感想 ~私が私を語る為の物語~

前々からちょっと気になってたけどうまくタイミングが合わずに観れていなかったミュージカル『レッドブック』、遂に先頃何とかNAVER 配信を観る機会があり、滅茶苦茶良かったのです。

割と良くやりがちな何となく事前情報とかだけで6割くらい解れば御の字よ、みたいな感じで観るか!と思っていたのですが、なんとフォロワーさんに台本の翻訳文を頂き、あまりのありがたさに握りしめながら見ました。いつも6割くらいのぼんやり韓ミュわかるかな観劇がちゃんと十分わかる観劇に変わり、滅茶苦茶ありがたかったです!!内容的に原作もなさげだったのでマジのマジで大助かりでございました…『ブラザース・カラマーゾフ』の時しかり、私の韓ミュ観賞のSpecial Thanksは常にフォロワーさん達です…BIG LOVE…

感想

はい、というわけで『レッドブック』を観たわけなのですが、このミュージカル、滅茶苦茶フェミニズムミュージカルなんですよ~!!!ざっくりしたあらすじ的には保守的な社会規範に抑圧されていたヴィクトリア朝期に、女主人公アンナと志を同じくする女たちが官能小説本「レッドブック」を刊行する話なんですが、女たちがまあ、多様でそれぞれに際立ってるし、アンナに振り回される(自称)紳士のブラウンくんと愉快な仲間達、文学サークルの主催者である美麗な女装家(?)ローレライ等々、各キャラクターの個性の重なりあいが最高なんですよ…

この作品は、女性が未熟な半人前で、自立した一人間として認められなかった時代に、1人の女性が文学の力を通じて己を見つめ、文学によって自分を語るという自分で自分を語り、愛するための物語であり、文学が人に与えるポジティブな影響力を描いた話でもあって、主人公アンナの台詞にも「私は私を語る人」、テーマをそのまま体現しているものもあり、正に200点満点のミュージカルなのです…

 

主人公のアンナがまあとにかくおもしれーいい女で、『高慢と偏見(とゾンビ)』のエリザベス・ベネットもビックリぐらいの自我の強さが魅力なんですよ。「悲しいことがあるといやらしい事を考える」っていう女で、自分が恋愛したり他者と身体的に接触することについてポジティブに当たり前のことで別段恥じることでもないっていう感覚の持ち主なんですが、その感性がビクトリア朝の女性規範には全くあっておらず、自分がおかしいのではないかというアイデンティティの揺らぎを感じている主人公でもあります。所謂当時理想とされている女性像と自分の乖離が激しすぎて、「自分が何者か」についても自信が持てずにいたのですが、志を同じくする文学仲間達との出会いを通じ、自己実現の術を得ていく流れが完璧すぎる…作家仲間もそれぞれに個性的で、ローレライの丘、会長のドロシーとアンナのシスターフッドも最高なんですが、個人的にお気に入りは、『高慢と偏見』が好きすぎてファンフィクやってるオタク「ジュリア」ですね。「ダーシーは私のものなんでよろしく!」が好きすぎる…やはりミスター・ダーシーはセクシーだからね…

結局仲間を見つけたアンナ達が出した「レッドブック」が官能的すぎるという名目で彼女たちは裁判にかけられてしまい、恋人ブラウンは「一時的衝動やヒステリーを主張すれば大丈夫」って、彼自身は「アンナの為に」教えてくれるんですが、仲間達は彼女たちの境遇やこれからの為にもその主張を受け入れる中、アンナがどうすべきか悩む、というのもリアル…アンナはブラウンに説得されて一時は正気ではなかったという主張にのるか悩むんですが、自身のファンに誠実であるため、また何よりも自分自身を愛し、そのままでいいんだと認め続けるために、社会の圧力に抵抗していくことを選び、彼女のその強い意志と誇りが、結果的に周囲を、社会全体を動かしていく、という流れは理想的すぎる流れなのかもしれませんけど、実際こうやってたった一人でも社会に立ち向かった人々がいるから今に繋がる流れがあるんだよな、という現実との接合も感じられてとても良かったです。未熟で文学的な才能なんて持ち合わせていないはずの「女性」が、よりにもよって「過激」な小説を書くなんて、という建前に反して本自体は飛ぶように売れ、こうやって自分の体や経験のことを自ら語ってもいいんだ、という風に女性達がエンパワメントされて最終的にアンナにとって良い判決を生み出していく流れも、シスターフッドを感じました。アンナは文学を通じて自分を救い、アンナの文学が他の誰かに力を与えるかもしれない、っていう創作物のもつ力への信頼も、韓国ミュージカルの特徴だよなあと常々感じるんですが、この作品もしっかりそのあたりを描いており、個人的に「創作物と人間」の話が大好きなのでそのあたりも大変に良かった…

余談ですけどヴィクトリア朝、マジです~ぐ自立した意思の強い女性のこと「ヒステリー」って言うよね~!!?しかもアンナを大事に思うっていうブラウンの口から、性被害を受けたアンナに対して「君も悪いんだよ、あんな本書いてるから誤解される」とか出てくるの、まあ今でも普通にある流れではあるんですが(クソすぎる)、うええ…ってなりますね…そういうあたりのリアルさも実際にある現実な分、共感も想像もしやすかったんじゃないかなと思います。

んで件の(?)ブラウンくん、彼も良い味出してた…ブラウンという人物、根が善良で弱者を助け、正義を通したいっていう意思と反面で保守的な価値観の持ち主で無意識に差別に荷担してるっていう二つの側面の描きかたが絶妙すぎました。人間として悪人ではなく、悪気がないこと=他人を差別せず同じ人間として対等に接することが出来ること、ではないんだよっていう当たり前だけど見過ごしがちな事実を説得力を持って演じてくれてたと思います。ブラウンは自分が思う規範に全く当てはまらない、規格外な女性であるアンナに惹かれて、愛し、助けたいと思う、そして徐々にでも自らの価値観を見直して変わっていける人間である点で良い人間でありつつ、どこまでも一方的な見方で「アンナのために」と言いながら規範にそぐわないアンナを変えようとしたりもするわけで…途中、「アンナのことは全く理解できないけど、愛してるしそれでいいじゃないか」みたいなこと言っててアンナも一旦それを受け入れるんですけど、あの辺り、個人的には最終的な決着を観てもやはりパートナーにする上では、いくら理屈じゃないとは言っても譲っちゃならない価値観の擦り合わせは大事だよな…ってなりましたね!まあブラウンくんは最終的には自分がアンナの話全く聞いてなくて理解する努力もしなかったことにちゃんと気付き、愛する人が大事にすることを自分も大事にするんだってなるのでアンナとラブラブはっぴーなエンディングを迎えるので全体的にそういうバランス的にも絶妙なキャラクターでしたね!という感じです。あとね、ブラウンくん、私が個人的に「意思の強い自由な魂の女にブン回されてしっちゃかめっちゃかになる男」が大好きなんで、大層良かったですよ…ブラウンくん、最初はあんなに僕紳士です~みたいな感じだったのにおもしれー女に常識毎ぐわんぐわんに振り回されて加速度的に滅茶苦茶なってくので、とにかくおもろかったです。ああいうロマンス、めっちゃ好きよ…最終的にはアンナとマンネリ予防(?)のために探偵×怪盗パロとかノリノリでやってアンナのミューズとして申し分ない男に育って…ウケますね…あ、あとアンナの小説読んで「このフクロウって僕のことじゃん!?めっちゃ僕に似てるもん間違いないもん!」ってアンナに力説して何いってんだコイツ、みたいな顔されてたのもイタくて良かった…そんな男がちゃんとミューズの自覚ある男に育って…感動もんですよ…

 

とまあ、色々まだまだあるんですが、とにかくおもろかったし楽しめました!再演来たら現地でみたいミュがまた増えましたね!「レッドブック」、女性の自己実現や自己主張を、「真っ当な女性ならはしたなくて絶対にしないであろう」、女性の主体的なポルノ消費や性表現の文脈からやってるミュージカルでもあり、この辺りも考えたら滅茶苦茶現代と通じるテーマの一つですよね。

そして!これだけは言わせて欲しいんですけどプンレさんのローレライ、めっっちゃくちゃ良かったよ~!!プンレ氏、ドミトリー(カラマーゾフ)のイメージが強かったんだがめっちゃ可愛かった…(ミーチャも可愛いかったよ!)ちょっとお茶目で、文学への熱い気持ちと、失った愛する人の遺志を継ぐっていう信念が調和しており、アンナの導き役として大変良い仕事してたと思います…キュート…