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ドラマ『シスターズ』感想~多様な女達と女と女の物語〜

Twitterシスターフッドの話だと見て以来、見よう見ようと思っていたドラマ『シスターズ』、遂に見たのですが想像の200倍良すぎてこれはもう絶対このパッションを書きとめないといられないと思いまして、以下とりとめも無く感想をだらだらと続けます。時系列等はちゃんと纏めてないマジでとりとめもないやつなので悪しからず……

 

女と女の物語として

そもそも『シスターズ』を見るきっかけになったのが、シスターフッドの物語という触れ込みだったのですが、実際の所予想を遥かに上回りマジで徹頭徹尾女と女の関係を丁寧に描き切った作品だったと思います。

このドラマ、貧困に苦しむ三姉妹達が、長女が莫大な金を手に入れてしまうところから社会の闇に巻き込まれていく話なのですが、もちろん登場人物に男性キャラクターは多々出てくるし主人公達の足を引っ張ったり助けたりはしつつ、最終的に物語を始めて終止符を打つのは女達なんですよ…男性を介さずに生身の女と女が向かい合い折衝し対立し、自分達の物語を成立させる、この話の主眼はそこにかなり意識して置かれてるな〜と感じました。

あと、女女の物語を扱う上では避けては通れないというか扱わずに済まされない家父長制の問題についても『シスターズ』は真っ向から扱っていて、事件のキーアイテムである「青いラン」は「父の木」と呼ばれる木に寄生しない限りは長く生きられないという説明がされてます。このランを中心に構成された「情蘭会」の会員は、「父の木」にランを据えてもらい会の役に立つうちは成功を約束されるもののしくじればランは木から離され、自死をしなければならないというヤベエ会なんですけどこれもう正に家父長制のメタファーですよね。作中次女インギョンが尊敬する上司が実は会員だった事を知らされた時、「立派な父がいれば苦しむ必要はない」と言われるんですが、これこそ正に家父長制の仕組みというか、強く恐るべき「父」の下で他人を蹴落とし役に立つなら成功を約束されるが、弱者になればすぐさま切り捨てられ顧みられる事もないという本質を示唆するわけですよね。ここでインギョンはハッキリ「そんな父は要らない」と上司の発言を否定するのも最高。基本的にこのドラマは家父長制を否定し、最後はサンアとインジュ、ファヨンの対決を経て「父の木」はその組織の中でがんじがらめになったサンアと共に滅びてしまう訳で、あからさまに女達が家父長制と手を切る話じゃん……となりました。

 

オ・インジュという女

あのね…いや私メチャクチャにオ・インジュが好き。三姉妹の長女、インジュは金が好きで金があれば家を買い幸せに暮らす事が出来るはず、という考えをもってる現実思考の女なんですが、実のところインジュの金が好きという話、金が好きというか「金がなければ死ぬ」という切実な理由から来ている。実際インジュは貧困の為に命を失った妹がいて、彼女が成長して生計を支えられるようになっても、やはり貧しい故に妹に安定した生活をさせてやれないし夢を与える事も出来ない。インジュの言う金銭への志向は実際全て長女の自分が妹達を幸せにしなければという家族への目線に下支えされてるので、作中案外本人自体、人並み以上の金銭欲はないんだろうな…と思いました。しかも金と男に執着すると言いつつ過去の結婚は金のためで持ち家がある男だと思ったからという……妹の生活に捨て身すぎる。

んで本人、自分に得意な事は無く、ただ金銭欲があり昔から男に好かれる事くらいじゃないかと言ってるんですけど実際多分まあ目に見えた特技は確かに無いんですが、オ・インジュという女、どこまでも生活に基盤を置いた女というか、生きる事と自らの目的に対する取り組みの懸命さという部分に滅茶苦茶長けた女なんですよ。インジュの目的は実際最初から最後まで姉妹の幸福と自身に金を残して死んでしまったファヨン先輩の死の真相を明らかにする事に終始していて、マジでブレない。このブレなさが彼女の強みで、姉妹と先輩の為に正に自身の命を投げ打って事にあたる人間な訳です。彼女自身はそういう若干現実的といえば聞こえいいけども俗すぎる欲望への志向とか妹達のように勉強が出来たり才能があったりという訳じゃ全然ない人間だっていう自分を長所がない鈍感な人間って評するんですけど、インジュが自身と何より大事な人間の幸せな生活を追求し、一番生活に貪欲であるからこそ異様にメンタルが強く打たれ強い女だってのは割と直球で彼女の主人公性の表れだよなーと思いました。強い正義感や秀でた才能は無い、ただ自身とその手が届く周りの為だけにならいくらでも自分を投げ打てる現実的な生活者としての主人公、っていうのがインジュの1番の強みでその辺りの爆発的な魅力にどハマりしたのがファヨン先輩しかりドイル氏であり、サンアでもあったんだろうな〜と思います。あんな忠実な生活する女、なかなかいないよ……あと、インジュがあくまで生活に基盤を置いた人間だからこそ窮地に際して誰かのために若しくは自分自身を守る為に覚悟も座るし結果的に窮余の一策を見出すのでやはりインジュは生活者じゃ無いとダメなんですね。サンアにすれば「希望という病気に取り憑かれている」らしいですが、インジュの志向は自身と周りの少しでもより良い生活に一心に向けられてるのでそれが結果的に強いんでしょうね。彼女は生きる為に闘う女なので。そしてそうやって捨て身で駆けてく女だからファヨンやドイルが手を貸そうとするし。最終的に大叔母さんがインジュに漢江の見える家を残してくれたのも、インジュと大叔母が共にやっぱり生活の為に闘う女だからと言うか安心できる家があればまた明日も生きていけるって考えの人間、そりゃ姉妹の中じゃインジュだけだもんね。それこそかつては自分に似てて痛い目に遭う未来が見えるが故に嫌いだったけど、成長したインジュになら託したいと思うだろうな〜と。

ていうか『シスターズ』、シスターフッドの話では勿論ありますが、女女のロマンスの話でもありますよね??作中ロマンスと呼べるとすれば私は間違いなくファヨンとインジュ、イネとヒョリンだと思いました。あ、勿論インギョンとジョンホは異性愛ロマンスであれはあれで可愛かったんですが、2人の女の間に流れる特別な関係性の描写がうますぎませんか??イネとヒョリンは互いに孤独な少女が2人だけの世界を得て信頼で結ばれ、手を携えて駆けていくっていう所謂ボーイミーツガールでは良くあるロマンスのガールミーツガール系で、あの2人が最後までちゃんと互いを離さず一緒にいたのがめちゃくちゃ良い……あと最終盤のマジ泥沼展開になる前に2人が船出して子どもは安全なとこにいるべきよね、みたいにしてもらってたの、ドラマの配慮を感じて良かったな……

まあ本題はファヨンとインジュなんですけどね???あの2人ヤバすぎません???あれを愛と言わず何と呼ぶの??ファヨン先輩はまあ突然720億ウォンをインジュに残して謎の死をとげ(死んではなかったが)、インジュはその死を追いかけ巨大な事件に巻き込まれるんですけど、あまりにも互いが互いに対して命を駆けあうんですよ……ファヨン先輩はインジュの幸せを願って巨額の金銭を送り(何なら韓国で3足しか無い靴もあげた)、インジュの危機を知れば自分を犠牲にして庇い全てをインジュにあげようとするんですけど何……??しかもなんか会社ではインジュにハブ同士付き合うと碌な事ないよとか言いつつ(とは言え普通にめちゃくちゃ世話焼いてる)割とありとあらゆる人にインジュの事べた褒めしまくっている……わざわざサンウに蘭にかこつけてインジュは今は地味でも花がひらけば誰より輝くはずって言います??愛じゃん???インジュの事ずっとお姫様だと思ってたんだよね???まあわかる、インジュは大胆だし可愛い。ファヨンオンニ、私と同担だね(???)。そしてさ、インジュもファヨンの信頼に全力で応えるというか多分ファヨンが思ってた何倍もファヨンが好きなんですわ……ファヨンはインジュが20億ウォン受け取れば後は自分を忘れて幸せになるはずだと思っていたんですけど、インジュはファヨンの死を追いかけ続け、命の危険を冒しても先輩に会いにシンガポールまで行くんですよ……ラン競売で泥棒姫競り落として先輩の姿を探すインジュの必死さ、凄いんですよ……そんでファヨンが生きてたと知った時の激情……私は先輩の死の真相に迫る為なら命を懸けられたって直で言いますん……??ファヨンとインジュは依存し合う関係では無いし互いに寄りかかるような感じでも無く、ただ互いの為に命を懸ける事ができる間柄だってのが良すぎるんですわ……ファヨンは知らなかったけどインジュはとっくの昔にファヨンの為に命を懸けられるんです……ファヨンがインジュの為に全て投げ出せるように……そして極め付けがサンアの誘いに乗ってファヨンを助けに単身サンアの家に向かうインジュ…3人で心中するつもりのサンアの策略でスプリンクラーから塩酸の雨が降り注ぐ中、ファヨンを助ける為に持ってきた手榴弾を使って鉄の板を手にし、それを傘にファヨンに駆け寄り助け出す訳ですよ……もう、こんな劇的な展開……ロマンスじゃん……私がこのシーン何が好きって1つは人間を殺傷する目的で貰った(渡したチェ・ヒジュ氏は作中1人なんか違う映画の人じゃんという雰囲気でウケた。1人だけセガール沈黙シリーズとかみたいだった)手榴弾をファヨンを助ける傘を作る為に使った事、後はやっぱり結局ファヨンとインジュをどちらも救ったのはインジュ自身であって、追っかけてきたドイル氏ではなかった事だよね……徹頭徹尾女と女が自分達で全て片をつけて自分達で守り合ったのが良かった……最後、ムショで面会する2人の手にフォーカスしてたの、2人の手が塩酸で爛れてるのを見せてその関係性の特別さを表す演出なんでしょうがもうあんなロマンチックな事無いじゃん……

んでね、ドイル氏には悪いんですけどチェ・ドイル氏の存在がファヨンインジュ感のロマンスラインを際立たせている……いやマジでドイル氏はめちゃくちゃいい男なんですけどね(インギョンの言う、資金洗浄のプロはまともな男ではないについてはマジでそう。それはそう)。ドイル氏、あんな金の亡者とか言われてたのに実のところインジュにベタ惚れじゃないですか……インジュが好きかどうか賭けの対象にまでされとる冷血漢()ドイル氏ですが、そりゃもうインジュの為にマジで彼は彼でありとあらゆるものを投げ打ってくれるんですけど、実のところインジュにはこれがあまり伝わっていない……インジュは彼を親切な人だからと思ってるんですわ……まあインジュが正直ドイル氏にロマンスしてる場合じゃなかったのもあるが……しかしやはり前提としてインジュの向かう先はファヨンオンニなのでドイル氏に向かうわけもないという話なんすわ……ドイル氏、めちゃ健気なんよ……シンガポールではインジュにいそいそ自分セレクトのお洋服とアクセでオシャレさせて(みんなが思うインジュの服とかいうてましたけどアレはほぼ間違いなくドイル氏の趣味)、インジュから不信感ぶつけられても正直僕だけを信じて欲しいけどといいつつ銃を渡すし結局逃げられたのに必死に探して助けに来るし……なのにメチャクチャんなったインジュを膝枕しながら言われたのがドイル氏を信じてなかった訳じゃなくてただ一目でいいからファヨンオンニに会いたかった!ですよ。もうさ、ドイル氏の気持ちよ。勝てる訳ないじゃんね……しかも最後も結局インジュを安全な場所に連れて行こうとしてるのに結果的にファヨンの為に置き去りにされ(まあこれは単にインジュがファヨンの為にドイルを巻き込むタイプじゃないのもある)、再び必死で追いかけたけどコ室長と戦ってる間にインジュは自分で片をつけてくる。インジュからドイル氏への明確な裏切り(?)は2回ともファヨン先輩の為なのよ……こんな感じなのでドイル氏は別れ際もまた会おう、とだけ伝えて去ってくしかないし……インジュはよくわからん顔してたし……ドイル氏、割と初対面からおもしれー女、オ・インジュに加速度的に惹かれてたっぽいですけど、インジュを見つめれば見つめるだけインジュが向き合う相手がファヨンだとわかるから、あの距離感で留めたんだろうな……百合に挟まる男じゃんとか思ってごめんな……まあ完全に構図はそうだけどドイル氏はいい男だよ……資金洗浄はするけど。

 

多様な女達の物語

ちょっと最推し(?)オ・インジュについて話し過ぎたんですけど、『シスターズ』の魅力は勿論インジュに留まらず、マジで色んなタイプの女達がいて、彼女達の関係性が丁寧に描かれる故にめっちゃ良いケミが発生してる事なんですよ。本当に女の造形が多様。ある意味既存のヒーローらしくはない正義感も強くない俗で秀でた特技もないが生活者であるインジュを初め、正義感と意思の強さ、そしてやっぱり人間らしい欲を抱えた次女インギョン、才能に溢れ姉達の愛に潰されるのを恐れ自分が姉達の未来を潰すのを嫌がって別の世界にヒョリンと旅立つ三女のイネ。恐るべき敵でありながら哀しいモンスターでもある狡猾かつ享楽的なサンア。怪物のような両親の元に生まれ、自分を殺さない為に家族を捨ててイネと旅に出るヒョリン……それで私の結構お気に入りなんですけど圧倒的暴力女でマジで多分人間の事サンドバッグだと思ってる節が絶対ある暴力を愛する女コ室長などなど他にも様々色々な女達がいて、その全てが丁寧に描かれてるんですよね。コ室長周りが特に意識的な気がするんですが、この暴力特化人間のコ室長、あまり既存の女性キャラクターに与えられる造形ではないというか明らかに典型的な男性キャラクターに振られがちな造形だったと思うんですよね。室長、まずもって全ての解決手段が大体暴力が選べそうなら暴力を選ぶという本質的に暴力を愛する性を持ち、反面上司には忠実で部下に対しては割と思いやりのようなものがある。結構男性登場人物にはあり得そうなキャラクターを女がやっていて、彼女に相対する形でドイルが暴力(武器)を嫌い、出来うる限り暴力行為を避けようとする男っていう造形も面白いなと思いました。あとね、室長がやたらめったらドイル氏がインジュの事好きなのか気にするの、端的におもろい。ドイル×インジュが推しか??なんなら最後の戦いですらオ・インジュが好きだから来たんだろう??などと質問をし、ドイル氏から「そう思うなら邪魔しちゃダメだろ」というめちゃくちゃなど正論名言を引き出した功労者でもある。何?そんな気になります???まあ、普通に考えると室長はドイル氏を自分と同じ他人に愛情を与えるような人間ではないとみなしてたが故の理解できなさだったのかな〜とも思うのですがとりあえず面白かったので。

あと、造形的な話で言うとサンアとジェサンの夫婦も結構ステレオタイプとは逆っぽいと言うか、父権的な力の象徴みたいな登場の仕方をしたジェサンが実のところサンアの思惑のままにサンアへの愛で行動していて、サンアから死ねと言われたら愛のために自死を厭わない人物なんですよね。父のために死ぬ母はよくありますけど母の為に死ぬ父ってよほどの英雄的文脈意外だとあんまりないかな〜という感じ。しかも愛のために。しかしサンアはジェサンの為には死なないけどジェサンはサンアに愛を捧げて死ぬし、実際的に「父の木」を握っていた家父長制組織のトップにいたのがサンアであってジェサンではないってのもおもしろかったかな。

あ、あと、このドラマ、若草物語の翻案(?)らしいのですが、造形もかなりそういう部分を意識しつつ、現代的になってたり良い意味で原作を裏切ってるのも良かった。そういう点で言うと若草物語では最終的にエミリーと結婚するローリーにあたるジョンホが、ジョーに当たるインギョンを献身的な支え続けて愛に行き着くのも良かったですし、原作では大叔母さんからジョーが遺産を継ぎますけど家を実際譲られたのは叔母が嫌っていたはずのインジュだったりとかいう細かいけど原作ファンだとわかるしへえ〜ってなる展開だったのも良かったです。インジュは漢江の見えるあの家で、先輩の出所を待つんでしょう。